No.010 虫の恩返し
サラリーマン生活で出会った人や出来事について書いてみたいと思います。
今日のお話は、もしかすると金運に関係があったかもしれない出来事です。
虫の救助
あの会社を辞める2年くらい前のことだったと思います。
派遣先の企業には、社員食堂の建物の外に学校のプールの三分の一ほどの大きさの四角い池がありました。昼休みには、3本の噴水が水の柱を作っていました。
私はそこで、昼休みに飲み物を買って、ベンチに座りながら同僚と話していたことが多かったです。
3時の休憩時間には、紙コップのホットかアイスのコーヒーを買って、一人で噴水の脇のベンチに座ってスマホを見ていることがよくありました。
昼休みと違い、噴水は止まっていて、人もまばらでした。
水面には木の葉が浮かび、池全体をゆっくりと左回りに移動していました。
春から秋にかけては、池に落ちた虫がもがいていることがよくありました。
小さめのカナブン、アブ、トンボなど、さまざまな虫が溺れていて、手足(正確には6本の足)を水中で動かしていました。頭や胴体のほとんどが水につかっており、呼吸なんてできていないに違いありません。
それでも必死にもがいて、手足を動かしている姿を見ると、どうしても助けたくなりました。
農作物を食べる害虫かもしれませんが、ゴキブリやスズメバチのように人間に危害を加える害虫ではありませんし、この会社の周りの森に住んでいる虫たちなので、助けても問題ないだろうと思いました。
ベンチの後ろ数メートルには樹木が植わっているエリアがあり、私はそこで細い枝を拾いました。その枝の先を虫のそばに入れてみると、大抵の虫はその枝にしがみつきます。
そっと水面から引き上げ、枝があった元の場所に置くと、多くの虫たちはしばらくじっとしてから動き始めます。
すぐに歩き出すものもいれば、羽の薄いものは羽を乾かす必要があるのか、すぐには飛び立ちません。水に浸かっていた時間によって回復にかかる時間は違うでしょう。

ある日、アオスジアゲハが羽を大きく広げた状態で浮いていました。手足はすでに止まっており、もう助からないかもしれないと思いました。
蝶の場合、羽が全面的に水面に接してしまうと、持ち上げるのに非常に大きな力が必要です。
若い頃、ウインドサーフィンをやっていた私は、水に浸かったセールを持ち上げる大変さを知っています。
初心者の頃、足の着く浅いところで、セールの下に潜り込むようにして落ちてしまったとき、セールを持ち上げようとしても水の抵抗が大きく、パニックになりました。頭を水中に沈めたままセールの外に出なければ、溺れてしまうところでした。
幼い頃、アゲハ蝶を幼虫から飼って羽化させた経験があったせいか、アオスジアゲハをそのまま見捨てることができませんでした。
枝で触れても反応はありませんでした。もう1本の枝を見つけて、2本の枝で蝶の羽の下側に差し入れ、すくい上げてベンチのそばのタイルの上にそっと置きました。
蝶は羽を広げたまま、びくともしませんでした。

「ああ、やっぱりダメだったか…」
コーヒーを飲み終えたら、後ろの樹木の下にでも移動させよう。アリたちが片づけてくれるだろう。
ベンチに戻り、私はスマホの画面で株価やニュースをチェックしました。
脇に置いてあったコーヒーの紙コップを取ろうとして横を向いたそのときです。
ステルス戦闘機のように地面に平行に広がっていたその蝶の羽が、一瞬垂直方向に動きました。
そして、数秒おきに羽を水平と垂直に動かしていました。
息を吹き返したんだ!
体力の回復や羽の乾燥には時間がかかるだろうから、その場はそのままにして去りました。きっとそのあと飛び立ったに違いありません。
こんな出来事もあって、3時の休み時間には池に落ちた虫を見つけると、助けることがだんだん楽しくなっていきました。
虫たちのお陰かどうかはわかりませんが、その年の秋から冬にかけて、金運が良くなったように感じました。
ホバリングが得意で瞬発力のあるトンボですら池に落ちていたことがあるので、あの池の周辺には予想外の風が吹いているのだと思います。
今はもう会社を辞めてしまったので、私はあの噴水のある池のそばにはいません。
虫たちには飛ぶコースや高さに気をつけてもらいたいものです。
私にとって、おぼれている虫を助けるという行為は?
私は、あの会社に勤め始めた頃から、派遣社員としての境遇や単身赴任生活への不満があり、苦痛な状態が約10年も続いていました。
転職活動、投資、副業などを試みて、なんとかその境遇から脱出しようと長年もがいていたように思います。
今思うと、虫を助けるという行為は、あの虫たちに自分自身の姿を重ね合わせて、同情してしまった結果なのかもしれません。
定年退職するより前に自由になれた今の状況は、人間より高次元の存在が、もがいていた私に枝を差し出してくれていたお陰なのかもと思ってしまうのです。
感謝の気持ちを忘れずにいたいです。
投稿日:2024.08.22